俺はADHDだと親に思われていた。
大学生の頃ブックオフに父親と一緒にいらない本を売りに行った。買取終了後、なんの本がよく売れたのかレシートを眺めていると、
「ADHDコーチング」という本が50円で売れていた。こんな下世話な本を購入するのはきっと母親しかいないと確信した。俺の出した漫画「べるぜバブ」はそれより安価で買い取られていた。
それを機に「自分はADHDだったのか」という自覚は芽生え、過去の自分の失敗を論いながら確かに間違いないと実感したものである。しかし俺は病院には通わなかった。ADHDの度が過ぎて新卒の会社でハブられ、初めて鬱になった時さえも病院に行かなかった。何故ならADHDと診断されない限りは健常者なのだからだ。最近はギリ健常者を「ギリ健」と呼ぶ人達もにわかに存在するそうだが、俺はこの単語の語感がかっこよくて大好きだ。ビリケン、そうアメリカの芸術家が夢で見た幸運の神様ビリケンみたいな響きが妙に心を擽る。
↑ビリケン
冗談はさておき、ADHDと診断されないシュレディンガーのADHDである俺は、黒(人狼)と判定された後、自らをより貶してあらゆる可能性を諦める道は選ばなかった。あらゆる理論で己の特性を納得させながらも工夫して地道に仕事でのミスを減らした。勿論今でも俺のミスの量は健常者以上であるし、すました健常者の会社員にミスする度に嫌な顔されて咎められるのが殆どの会社での当たり前である。今でも悩んでいるからこの記事を書いて聴衆の知恵を集う。
先に触れておくが、ADHDの生きづらい特性は何もミスする事だけでは無い。ただここでは手を広げずに「ミスしやすい時の精神状態」一点に絞る。
かねてより調子のいい日と悪い日に差があることに悩んでいる。自覚は高校生の頃からあった。調子の悪い日は大抵ミスをする。ミスすると精神状態が乱れて更にミスの量は悪化する。対して調子の良い日はミスは少なく、頭の回転が早くて大概ほんのりキレている。
①脳のリソース面に着目する。
成功例は先述した新卒の会社でハブられかけた時である。
入社時の精神状態は「迷惑をかけて申し訳ない」という気持ちだった。何も出来ないまま現場に放り出された。ミスが多く出来の悪い俺が入った事で、より現場を混乱させてしまい謝罪してばかりいた。萎縮して普通の声量も出せなかった。年下には強く当たられてベテランは口も聞いてくれない。自分に足りていない仕事の知識を業務外時間にインプットすることはせず、オナニーをして寝た。
辛くてしゃくりあげて涙を流した日もあったが、最終的には抑圧された感情は怒りへと変貌した。「殺す!そして俺も死ぬ!」と毎日叫びながら自転車を漕いで仕事へ向かった。無敵の人だ。
「今この人の首をナイフで切ったらどんな血の出方がするだろう」
そんな事を時に考えながら話を聞いた。
就業時間より早く着いた時は、仕事場の近くの墓地に一人籠った。落ちてるタバコに火をつけて吸い、殺意を高めて地獄の時間を待った。
この状態になって1ヶ月も経たぬうちにもう退職することは決めたのだが、この頃の自分は見られ方がマシになっている事に気付く。
萎縮しない分声量が向上していたのである。他人の気持ちや自分の見られ方に気を使う事に脳のリソースを割く分を、今の仕事に集中させる事が出来たため、ミスも減った様に思う。
どの職場に行ってもミスの少ないキレ症のお局が居る。もれなく不細工で、人への気遣いは無く自分の見られ方もせいぜい1パターンだ。読者も思い浮かべた人が居たか分からないが、これは脳の「見られ方」のリソースを排除して仕事の一点にコミットした彼女らなりの最適解なのかもしれない。
②-1 脳へ通う血量に着目する。
見方を変えるが、キレている時は脳への血の通い方も平常時に比べて増えている。血圧は上がり、心拍数は増えている。
血管の中はヘモグロビンが酸素を各部位に供給しており、適切な量の酸素が脳に送られると前頭前野の動きが高まって判断の鋭さ等に磨きがかかる。キレやすい人の方がIQが高いとよく言われるのは脳への酸素供給量も相関関係にあるだろうと思われる。ただしあくまで適切な程度の供給がミソである。
失敗例は会社の飲み会の司会をやらされた時である。
何度も噛み、言葉に詰まり、言い間違えをした。用意したボケも自分の気分に飲まれて出せなかった。数日前からプレッシャーと怒りで自分を追い込み、本番前は練習も1人で行っていたのに失敗した。
この場合は、萎縮しないようになるまで顧客に話しかけて頭に血を巡らせるのが現実的な最適解だったように思う。
タクシーの運転手をしていた時、俺個人に対して統計を取った結果、キレていなくともおおよそ7人に自ら話しかければ自ずと脳は回ってくる事に気が付いた。
②-2 ストレス面に着目する
血量の話と通ずるのだが、キレている時は何故血が通うのかというとストレスホルモンであるアドレナリンが出るからである。
従って次に俺が実験して成功した例は
・昼飯を食べない
・いつもより2時間だけ睡眠時間が少ない
・資格等の勉強をする
・オナニーをしたい時に我慢をする
この4点である。3大欲求を含む欲求を我慢した結果、見事にその日はミスが少ない傾向がある事に気が付いた。これは自分自身にストレスを課す、という行為であり、この成功しやすい4点以外にも「同じ味のおにぎりしか買わない」「少し嫌になるくらい高額なプレゼントを買う」「自傷」の様な己の健康やお金やプライドを削るいじめを思い着き次第行うのも少しは効果的。(はじめに挙げた4点以外はやりすぎても近い内にツケが回るので過度は禁物)
他の成功例を挙げるとタクシーの運転をしていて道を間違えた際、ストレスの大波が押し寄せると同時に打開策や謝罪の仕方や会話の切り出し方が湧き出た事がある。
「お客様は寝ているからそっと運転して正規ルートに我が物顔で戻ろう」
「何か世間話を切り出して安心させよう」
「後で自腹でお金を返そう」
「平謝りしよう」
「混んでない車線を選んでスピードを出したらこの不正解のルートが最適になる」
「転回禁止の標識はあるけど警察と車通りが少ないから転回できそうだ」
運転というのは気持ちが乱れていると事故確率が上がるので普段はローな状態なのだが、このストレスのスイッチが付くと忽ち外交的且つミスの少ない健常者状態になるのである。お陰で偏頭痛を患ってしまった。
もう1点
・運動をする
というのがあって、そこそこ効果的なのだが、筋肉をつけようとし始めると逆効果である事を発見した。
筋肉を付けて見栄えの良いマッチョになる為には食事制限も行わなければならない。反比例するように着いた筋肉の分代謝が良くなり体はエネルギーを欲す。結果的に仕事中頭が回らない状態になるのである。適度な運動は良いが、ボディメイクは駄目である。
これまで①から微妙に少しずつ内容が被っているベン図の様なものではあるが、紐解いて説明を行った。1日毎に心の状態をメモを取ったり実験を行ったりと今日に至るまで試してはみたが、今のところ大まかに纏めると結果的に、以上のような傾向になっている。
これを1文にして纏めたペルソナは
「遠慮せず他人に話しかけられる、何かを我慢しながら日々暮らしている人」
である。あまりにも夢にまで出てきた真人間過ぎて苦瓜の様な顔になってしまった。それが出来ずに欲に負けて昼飯を食べてしまうから困っているのだ。
最後に、今個人的に課題を感じているのは「果たして今日が調子がいい日であるか否か」が不明な点である。明らかに状態が悪い時、良い時は自覚が俺の中にある。ただしその自覚が無い場合にミスをした時が問題。
「今日は調子が悪い日だ」とやんわり自覚した後に熱続行(あつぞっこう:引くに引けなくなって続けてしまう事)してより失敗を連鎖させてしまうケースが殆どである為、自覚のない日に今日はどちらなのかを事前に予測できるものさしが欲しい。そのものさしが「悪い日」と告げていた場合、悪い日なりの工夫で乗り切る事が出来るようになるはずである。
先輩ADHD有識者は力を貸してほしい。皆で知恵を出しあって乗り越えようではないか。





